5月1日号

ー特集ー21世紀は街中を心を持つロボットが駆けめぐる

 21世紀初頭の人工生命は、非デカルト的技術と自ら進化していく技術が特徴で、これまでのコンピュターとは全く違い、自ら進化するため、同じようにつくったロボットでも「人格」のように「ロボット格」がある。ロボットは感情や判断力を持たせるだけでなく、知能の高いロボットのカップルをかけ合わせて優性遺伝を実現するレベルに達している。論理ではなく直感力を発揮するロボット。この人工生命の技術はこれからの産業を一変するほどの強力なパワーがある。小さく、安いコストで完成するロボットの応用は無限にあり、21世紀を制す最も重要な技術のひとつ。今回は、近未来のロボット特集。
1、21世紀初頭はロボットの世紀
 1994年4月「つくば人工生命祭り」に奇妙な生物が出現した。体長35cm・体重1.2kgの「ゲンギス(Genghis)」と呼ばれるこの昆虫型ロボットには、29個のセンサーと4個のプロセッサー(CPU)が実装されており、障害物などの多い複雑な環境の中でも自らの意思で自由に歩き回れるという。この「ゲンギス」の大きな特徴は、1個のプロセッサーで6本の足の一連の動きを制御しているのではなく、全く別々のプロセッサーでばらばらに動かしているということである。足がばらばらに動けば、当然転倒したり腹を打ったりする。腹部には腹を打つと痛いと感じる接地センサーがついており、その度に「ゲンギス」は自ら学習・成長していく。そのうちに「ゲンギス」は一糸乱れぬ足の運びを見せる。それはまさに本物の昆虫の動きそのものである。新しいコンピュータ技術、「A−Life(人工生命)」の歴史を刻む第1歩であった。
 これまでのコンピュータ技術では説明のつかないこの動きは、SA(サブサンプション・アーキテクチャー)という全く新しい理論に支えられている。従来のロボットとSAロボットでは、センサー群から入力した情報をどのように処理するかというプログラミングが全く異なっている。昆虫型ロボットの例をとると、従来は1つのプロセッサーで時系列に■右前足を前へ出す■左後足を前へ■右中足を前へ………というような制御をおこなっていた。まっすぐ進む時の足の動き、障害物を右に避ける時の足の動きなど詳細にプログラミングする必要がある。しかしSAロボットでは「物にぶつかったら後退する」などの簡単なプログラムパターンがいくつか準備されているだけ。複数のプロセッサーが並列処理する。それなのにSAロボットの方が、より曖昧で複雑な動きを、ごく自然に実行してしまう。プログラムサイズは従来の1000分の1程度まで縮小。プログラムの変更や追加も容易で、メモリーや磁気ディスクなどのハードウエア資源も大幅に削減された。このSAを提唱したのはマサチューセッツ工科大学・人工知能研究所副所長ロドニー・ブルックス氏。そして産業応用への道を開拓してきたのがアプライド・AI・システムズ(カナダ)株式会社の五味隆志氏である。五味氏はいわゆる3K(汚い、きつい、危険)の職場への早期導入を目指し、次のような技術応用を進めている。
1 建設現場掃除ロボット不要資材の片付けや清掃の完全自動化
2 倉庫内知的監視ロボット異常な振動や夜間の侵入者の監視
3 工場内完全自律走行車人や障害物を避けての荷物の運搬
4 配管パイプ検査ロボットパイプの内部での体をくねらせながらの検査
5 水中作業ロボット未回収機雷の発見など
6 船舶自動運転システム狭い港湾内での運搬を完全自動化
7 惑星探査ロボットサンプル採取 NASA「ロッキー」シリーズ
 テクノロジーの進化は時にわれわれに大きなショックを与える。今世紀初頭「電気モーター」が発明され水力や蒸気機関にとって変わった時、当時の人々の間に大きなセンセーションを巻き起こした。今「A−Life」という生物のように自ら学び、自ら成長していく新たな技術が、再びセンセーションを巻き起こす可能性がある。今の時点では、期待感と一抹の恐怖感が入り交じる感覚を覚えるかもしれない。しかし「電気モーター」が今では常識的に至る所で利用されているように、「A−Life」も日常に溶け込んでいくだろう。そして人間は意識の高まりとともに、次のステップを踏み出す。いつか「生命の心がわかる」ロボットが誕生し、さらに自らの心を育てるロボットの誕生を迎えることになる。
2、人工知能で頭脳再生
 五百年の時を超えてレオナルド・ダ・ヴィンチが甦ろうとしている、画家、建築家、解剖学者、物理学者…。いくつもの顔を持つルネサンスの天才ダ・ヴィンチ。人工知能(AI)を使って、その思考パターンを解析し、コンピューターの中にダ・ヴィンチの仮想頭脳を再生しようというプロジェクトが日本で進んでいる。仕掛けているのは慶応大学と英国王室ロイヤル・コレクション・トラストの総代理店、アートコンサルタントインターナショナル(ACI、東京・港、宇佐美博子社長)。すでにウィンザー城王立図書館が所蔵しているダ・ヴィンチの素描画約670点のデジタル化権を獲得した。いったい何をしようというのか。「環境情報、理工から医学、美学、歴史学にいたる総合的見地から万能の人を検証し、専門化、細分化した近代科学の調和融合を試みたい」。慶応大の相磯秀夫教授はこう説明する。ダ・ヴィンチが残した関節や脳、血管などの解剖図から、当時にはなかった現代のベアリングや変速機、タービンなどに通じる機械の原形へと飛躍していく思考の跡が浮かび上がる。慶応大はAIを構築する過程で型破りな思考や新しいタイプの技術者を生みだす環境を模索しようとしている。ダ・ヴィンチプロジェクトが成功すれば博物館や美術館に眠っていた天才たちが次々に電脳空間で甦ってきそうだ。未来とルネサンス――この時空を超えた知識の融合こそ電脳社会が持つ最大の可能性だ。「ダ・ヴィンチの人体解剖図を高度情報技術を駆使して科学と文化の融合を図ろうという試みに期待している」とウィンザー城王立図書館のオリヴァー・エヴァレット館長もロンドンからエールを送っている。これを欲しがっている男がいる。米マイクロソフトのビル・ゲイツ会長だ。英国王室に日参したが、商業利用に難色を示された。オークションに出回ったものだけでも、と素描画約20点を数十億円で買い取ったゲイツ会長。ダ・ヴィンチに商機を感じている。